AKB48『好きish』は1人あたり歴代最高だった——45人が生む枚数は、253人時代を超えている
まず前提を確認する単独史上最高、でも全盛期の3分の1
2026年8月19日発売の68thシングル「好きish」は、オリコン週間シングルランキングで初週55万9,000枚を記録した。2020年3月「失恋、ありがとう」以来6年5ヶ月ぶりの50万枚超えで、AKB48がメンバーのみで選抜を組むようになった58th「根も葉もRumor」以降では最高の初週売上となる。実売数に近いビルボードの週間セールスでは76万5,977枚に達している。
ただ、この数字を歴代と並べると印象は一変する。オリコン初週の歴代1位は31st「さよならクロール」の176万3,000枚。好きishはその3分の1にも届いていない。「昔と比べたら全然売れていない」——数字だけを見れば、その通りに見える。
比較の前提を疑うその比較、分母が違うのでは
ここで引っかかることがある。AKB48のCDが売れる最大の動機は、長らく握手券だった。つまり売上枚数は「何人のメンバーに会えるCDだったか」に強く左右される。
さよならクロールや恋するフォーチュンクッキーが発売された2013年、シングルの選抜にはSKE48・NMB48・HKT48のメンバーが名を連ねていた。そして劇場盤の握手会には、選抜16人だけでなく4グループの全メンバーが参加していた。会えるメンバーが200人以上いるCDと、45人しかいないCD。この2つを同じ土俵で比べるのは、そもそも無理がある。
売上をメンバー数で割れば、「1人のメンバーがどれだけの枚数を生んだか」という別の指標が出る。グループの規模に左右されない、いわば密度の数字だ。これを出すには、各シングルの握手会に実際に何人が参加していたかを確定させる必要がある。
分母を確定させる握手会に出ていたのは何人だったのか
比較対象に選んだのは、意味のある2つの時代を象徴する作品だ。さよならクロールはオリコン史上最高売上を記録したシングルで、サステナブルは姉妹グループ合同時代の中でも在籍規模が最大だった時期の作品になる。サステナブルの次作「失恋、ありがとう」を最後に合同選抜は終わり、58th「根も葉もRumor」からAKB48単独の選抜に移行した。つまりサステナブルは、握手会が実際に機能した合同時代最後のシングルでもある。「一番売れた時」と「一番大所帯だった時」、この2つと今の45人体制を比べれば、規模と売上の関係がはっきり見えるはずだ。
| 時期 | 対象 | 人数 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2013年 | AKB48 86/SKE48 66/NMB48 63/HKT48 38 | 253人 | AKB48公式サイト(2013年6月26日) |
| 2019年 | AKB48 108/SKE48 65/NMB48 55/HKT48 56/NGT48 32/STU48 24 | 340人 | キングレコード公式PDF(実数集計) |
| 2026年 | AKB48(研究生含む現役全員) | 45人 | AKB48公式サイト メンバーページ |
「失恋、ありがとう」を比較から外した理由
57th「失恋、ありがとう」(2020年3月・初週116.7万枚)は、コロナ禍により握手会の全日程が中止・延期となり、最終的にオンラインお話し会への振替とCDの返品対応が行われた。握手会が一度も開催されていないため、この指標では比較できないと判断して除外した。
計算結果1人あたりで計算すると順位が入れ替わる
売上を握手会参加メンバー数で割った。集計基準はすべてオリコン週間確定値で統一している。
| シングル | 発売 | オリコン売上 | 参加人数 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|
| 31st さよならクロール | 2013.05 | 1,763,000 | 253 | 6,968枚 |
| 56th サステナブル | 2019.09 | 1,380,000 | 340 | 4,059枚 |
| 68th 好きish | 2026.08 | 559,000 | 45 | 12,422枚 |
さよならクロール比
サステナブル比
グループ全体の売上が最も大きかった時代ほど、1人あたりの数字は小さい。340人を抱えていたサステナブル期が4,059枚で最低、45人の好きishが12,422枚で最高。売上規模と1人あたりの効率は、きれいに逆を向いている。
数字の性質実は「実数」で比べるとさらに差が開く
ここまでの表はすべてオリコンで統一した。ただ、オリコンの集計ルールは時代によって変わっている。2016〜2017年に「販促イベントに紐づく複数枚購入は1会計あたり3枚までしかカウントしない」という減算ルールが導入された。つまり2013年のさよならクロールは、この減算ルールが存在する前の「純粋な実売数」だ。一方、2026年の好きishはこの減算ルールが適用された後の数字になる。同じ「オリコン」でも、算出方法が違う。
では、好きishの「純粋な実売数」に近い数字はどこにあるのか。ビルボードジャパンのシングル・セールス・チャート(SoundScan Japan調べ)は、複数枚購入を理由とする減算処理を行っていないと公式に明記している。つまり2013年当時のオリコンと、現在のビルボードは、どちらも減算のない実売数という点で条件が近い。340人を抱えたサステナブル期にもビルボードの実測値があるので、あわせて実売ベースで比較する。
減算ルールが存在しなかった時代の実売数(オリコン)と、減算をしないビルボードの実売数——条件を揃えて比べても、好きishはさよならクロールの2.44倍、最大規模だったサステナブル期の3.55倍という結果になる。集計方法の違いを踏まえてもなお、結論は変わらない。
単独時代の推移人は減り続け、売上は落ちなかった
1人あたりの数字が伸びた背景には、この5年間の推移がある。58th「根も葉もRumor」以降、AKB48は姉妹グループを含まない単独選抜に移行した。同時にメンバーの卒業が続き、チーム制も休止された。それでも売上は落ちなかった。
64th「恋 詰んじゃった」の29.6万枚が底だった。そこから65th 37.2万、67th 44.7万、そして68th 55.9万へと伸びている。底から1.89倍。この間、岡田奈々・本田仁美・柏木由紀と、シングルのセンターを務めたメンバーが相次いで卒業している。人数もセンター経験者も減りながら、売上は上を向いた。
58th「根も葉もRumor」が出た2021年秋、AKB48には研究生を含めて約90人が在籍していた。それが今は45人。メンバー数はおよそ半分になり、売上は35.1万枚から55.9万枚へ約1.6倍になっている。単純計算すれば、1人あたりの数字はこの5年で3.2倍近くに伸びたことになる。
約90人 → 45人
35.1万 → 55.9万枚
(単純計算)
単独時代の各シングルについては、発売時点の握手会参加人数を公式資料で確定できなかったため、前章のような厳密な1人あたりの数値は算出していない。上記の「約90人」は当時の在籍規模を示す概数であり、3.2倍という数字も単純計算による目安である。
まとめ規模の時代から、密度の時代へ
176.3万枚と76万5,977枚。並べれば圧倒的な差に見える。でもその176.3万枚は253人で作った数字で、76万5,977枚は45人で作った数字だ。1人あたりに直せば、6,968枚と17,022枚。差は逆向きになる。
かつてのAKB48は、人数の多さそのものが売上を作る仕組みだった。会えるメンバーが多いほどCDは売れる。340人を抱えたサステナブル期は、その方式が限界まで拡張された時期でもある。そして1人あたりの数字が最も低かったのも、その時期だった。
規模で売る時代から、1人が濃く支持される時代へ。数字の作られ方そのものが変わった、というのがこの記事の結論だ。
減り続けた年月は、失われた時間ではなかった
「昔と比べて売れなくなった」という評価は、グループ全体の売上枚数だけを見れば正しい。ミリオンが当たり前だった時代と比べれば、今の数字は明らかに小さい。
ただ、その数字を作っている人数も同じだけ小さくなっている。253人が176万枚を売った時代と、45人が76万5,977枚を売る今。複数枚購入を減算しない実売ベース(ビルボード)で比べると、1人あたりは6,968枚から17,022枚へ。歴代最高売上「さよならクロール」の2.44倍に達する。メンバー1人が背負っている枚数は、今のほうがずっと多い。
この5年間の動きも同じ方向を向いている。単独選抜になった2021年から今日まで、メンバーはおよそ半分に減り、センターを務めた3人が卒業し、チーム制も休止された。それでも売上は1.6倍に伸びた。減った分を誰かが埋めたのではなく、残った1人ずつが以前より多くを背負えるようになった、ということだと思う。
思えばこの10年、AKB48はずっと「終わった」と言われ続けてきた。ミリオンが途切れた時も、総選挙がなくなった時も、姉妹グループと別れた時も、メンバーが次々に去っていった時も、そのたびに数字は落ち、そのたびに終わりを宣告された。国民的グループの座は坂道グループに移り、CD売上でも動員でも抜かれ、いつしか「かつて売れていたグループ」として語られるようになった。
それでも劇場の灯は消えなかった。新しい世代が入ってきては公演を重ね、握手会に立ち続けた。そして今、45人という小さな数で、かつて253人が届かなかった密度に達している。減り続けた年月は、失われた時間ではなかった。規模を削られていく過程で、残った一人ひとりの厚みだけが増していった。
数字が小さくなったのではない。数字を作る人数が小さくなっただけだ。一度は頂点に立ち、抜かれ、忘れられかけたグループが、規模を失ったあとで密度を手に入れて戻ってきた——この数字の並びは、そう読むのが一番しっくりくる。
本記事の数字は、公式発表・オリコン・Billboard JAPANなど調べられる範囲の一次資料をもとに集計している。ただし手集計の部分(特に握手会参加人数)を含むため、誤りが残っている可能性がある。もし数字の間違いに気づいた方がいれば、コメント欄で指摘してもらえるとありがたい。



コメント
>2016〜2017年に「販促イベントに紐づく複数枚購入は1会計あたり3枚までしかカウントしない」という減算ルールが導入された。
それより前は2枚までしかカウントしないルールがありました。
さよならクロールも減算されてたと思います。
最低でも26thの時点で減算が確認されております。
ご指摘ありがとうございます。
オリコン公式の説明では「2016年9月以前も、一部の大型アーティストには個別に厳格な基準があった」とされており、AKB48も対象だった可能性はあります。
ただ、さよならクロール個別の減算有無を裏付ける一次資料までは見つけられませんでした。「純粋な実売数」と言い切ったのは訂正します。
ただ記事の結論(1人あたりの効率は今の方が高い)自体は、多少の差では変わらない範囲だと考えています。
1次資料ではないですが31stさよならクロールは完売表から見る限りおそらく250万くらいは売れてると思います。あまりにも違いすぎる。
26th真夏のSounds good!はダブルミリオン認定でしたがオリコン累計では182.2万。
ゴールドディスクは出荷枚数ですがこれも少なすぎる。
言葉を選ばずに言うとオリコンの数字はずーっと昔から実売とはかけ離れたインチキだと思います。
減算過去最大
2017/05/31 願いごとの持ち腐れ
オリコン1,392,231 ビルボード(実売)2,649,234
その差126万差
オリコンは分析に使える数字ではない