向井地美音が総監督として守った向かい風の日々——追い風になった卒業の日
セットリスト全曲掲載向井地美音 卒業公演 セットリスト(2026年4月30日)
2026年4月30日(木)18時30分、AKB48劇場。向井地美音は13年間のアイドル生活を、この場所で終えた。
出演メンバーは伊藤百花・岩立沙穂・大盛真歩・小栗有以・倉野尾成美・坂川陽香・佐藤綺星・下尾みう・鈴木くるみ・髙橋彩音・田口愛佳・千葉恵里・徳永羚海・長友彩海・永野芹佳・橋本陽菜・花田藍衣・福岡聖菜・武藤小麟・八木愛月・山内瑞葵・近藤沙樹。そして向井地美音。
| # | 楽曲 |
|---|---|
| 影アナ | 向井地美音(自身で) |
| M00 | Overture |
| M01 | 初日 |
| M02 | チャイムはLOVE SONG |
| M03 | ボーイフレンドの作り方 |
| MC | 花田藍衣・倉野尾成美・近藤沙樹・坂川陽香・山内瑞葵・徳永羚海 |
| M04 | 振り向きざまのキッス |
| MC | 田口愛佳・橋本陽菜・佐藤綺星・八木愛月・髙橋彩音・長友彩海 |
| M05 | 女神はどこで微笑む? |
| M06 | 摩天楼の距離 |
| M07 | そばかすのキス |
| M08 | 僕の太陽 |
| MC | 武藤小麟・永野芹佳・岩立沙穂・千葉恵里・福岡聖菜 → 鈴木くるみ・下尾みう・小栗有以・向井地美音・伊藤百花・大盛真歩 |
| M09 | 翼はいらない |
| ── アンコール ── | |
| ── 活動の軌跡映像 ── | |
| EN1 | 向かい風 |
| EN2 | 大声ダイヤモンド |
| 写真撮影・卒業スピーチ | |
| EN3 | 引っ越しました |
| アルバム&花束贈呈・終演 | |
選曲の意図を読む「初日」に始まり「引っ越しました」に終わった理由
1曲目は「初日」だった。
この日の公演は全曲フルコーラスで届けられた。秋元康の歌詞が好きだからこそ、1曲1曲を端折らずに最後まで歌いきる——それが向井地美音の「AKBへの愛」の表れだったと思う。
AKB48劇場における公演の最初の日を題材にしたこの曲を、自身の卒業公演の幕開けに選んだ。AKBオタクとして憧れ続けたあの劇場に、初めて立った日のことを思い出すような1曲。「始まり」を象徴する曲で始まった卒業公演は、最後に「引っ越しました」で幕を閉じた。
「引っ越しました」は劇場公演の定番曲として長く歌われてきた、新しい場所へと旅立つことを歌う曲だ。「初日」で始まり「引っ越しました」で終わる——13年間の物語を、この劇場でひとつの円環として閉じたセトリだった。
途中に挿入された「僕の太陽」も見逃せない。コロナ禍でわずか8人で上演していた劇場公演の曲だ。向井地が総監督として最も苦しかった時期の記憶が、この1曲に詰まっている。その意味は後のセクションで詳しく書く。
そして本編最後は「翼はいらない」——向井地美音にとってシングル表題曲の初センター曲だ。「自分がAKBの真ん中に立った曲」で本編を終え、アンコールで卒業ソング「向かい風」へと繋いだ。
この日の出演メンバーも、向井地美音自身が選んでいると思われる。顔ぶれを見ると、分け隔てなく、関係値がそれほど深くなさそうなベテランメンバーも含まれていた。おそらくそれは、コロナ禍の闇の時代を一緒に劇場で耐え抜いた「同志」への配慮だったのではないか。同じ景色を見てきた人間への、最後の敬意として。
セトリの選曲基準も向井地らしかった。今まで出演した公演から1曲ずつ選んでいるという。「当時の記憶を思い出してほしい」という理由で。華やかな代表曲を並べるのではなく、その曲を一緒に歌った人間との記憶を呼び起こすためのセトリ。最後まで後輩やファンへの目線を忘れなかった、向井地美音らしい選び方だった。
5年間の実態「向かい風」とはどんな時代だったか
向井地美音が3代目AKB48グループ総監督に就任したのは2019年4月。そしてその翌年、コロナ禍がAKBを直撃した。
握手会は消えた。劇場公演は無観客になった。チーム制は休止された。メンバーは次々と卒業していった。向井地が総監督を務めた5年間は、AKB48の歴史の中でも最も困難な縮小期と完全に重なっている。
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2020年
コロナ禍劇場公演が無観客に。「遠距離ポスター」を向井地・岡田奈々の2人だけで披露。 -
回復期徐々に人数が戻り、「僕の太陽」を8人で上演できるように。
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新公演コロナ禍が明け、「劇場へようこそ!」を16人で。本来の劇場の形が戻ってきた。
2→8→16。この数字の変化が、向井地が総監督として過ごした5年間の縮図だ。卒業コンサート(代々木)では「遠距離ポスター」「僕の太陽」「劇場へようこそ!」がそのままの時系列で並べられ、観客はその回復の軌跡を追体験した。向井地自身が「全員に居場所があるっていうのを伝えたくて、コンサートのセトリを考えました」と語っていたことを踏まえると、このブロックの選曲意図は明らかだ。
以前、4人の総監督それぞれが置かれた時代とリーダーシップの違いについて書いたことがある。そこで向井地の時代を「逆境・縮小期」と位置付けた。縮小期の組織に必要なのは「まだここにいる理由」を語れるリーダーだ。数字や実績ではなく、「なぜこの組織は存在すべきか」という問いに自分の言葉で答えられる人間。向井地美音はその役割を、AKB48への純粋な愛情で担い続けた。
語られなかった苦悩総監督は、時には孤独だった
ただ、あまり語られないことがある。向井地美音は総監督として輝いていた一方で、同時に多くのものを失ってもいた。
総監督というのは、時には孤独です。「1人のアイドルである前に総監督でいなければならない」という考えに縛られて、あんなに憧れていた大好きなAKB48での活動を心から楽しめなくなってしまった時期もありました。
——向井地美音、総監督退任スピーチ(2023年12月31日)AKBオタクとして憧れてメンバーになったのに、その活動を「楽しめなくなった時期があった」という告白は重い。インタビューでもこう語っている。「何を発言するにもAKB48代表の立場で、いつの間にか自分のファンに向けても自分のことを言えなくなってしまった」と。
自分を殺してグループを守ってきた人間が、最後に「翼はいらない」——自分がセンターに立った曲——で本編を終え、「引っ越しました」で笑顔で幕を閉じた。それが何を意味するか、ファンにはわかるはずだ。
2017年の選抜総選挙で17位に落ちて選抜外になったとき、向井地は1年間引きずり「ここにいる意味があるのかな」と悩んだという。その挫折が転機になり「私が勝てるのはAKBへの愛しかない」という言葉が生まれた。翌2018年の総選挙では13位に返り咲き、開票イベントのスピーチでこう言った。
「私はいつか、いつの日か、AKB48グループの総監督になりたいです」
——向井地美音、第10回AKB48選抜総選挙スピーチ(2018年6月16日)「ずっとまだまだ先のことだと思います」と話していたが、それからわずか半年後に横山由依から次期総監督に指名された。弱さを経由してたどり着いた「愛」が、彼女の5年間を支えていた。
代々木・3時間半の記録卒業コンサート(代々木)のセトリが語ること
4月3日、国立代々木競技場第一体育館で行われた卒業コンサート「私の夢は、AKB48」は全37曲、3時間半。向井地自身が構成したセトリには、13年間の軌跡が克明に刻まれていた。
| # | 楽曲 | |
|---|---|---|
| 影アナ | 武藤小麟 | |
| M00 | Overture(旧) | |
| M01 | 青春と気づかないまま | |
| M02 | AKB参上! | |
| M03 | 大声ダイヤモンド | |
| M04 | Everyday、カチューシャ | |
| M05 | 希望的リフレイン | |
| M06 | ハートの脱出ゲーム | |
| M07 | アクシデント中 | |
| M08 | Position | |
| M09 | 天使のしっぽ | |
| M10 | 残念少女 | |
| M11 | カフカとでんでんむChu! | |
| M12 | 僕の桜 | |
| M13 | 君の瞳はプラネタリウム | |
| M14 | 振り向きざまのキッス | |
| M15 | 君はメロディー | |
| ── VTR ── | ||
| M16 | 遠距離ポスター | |
| M17 | 僕の太陽 | |
| M18 | 劇場へようこそ! | |
| M19 | 流れ星に何を願えばいいのだろう | |
| M20 | おしべとめしべと夜の蝶々 | |
| M21 | 涙の表面張力 | |
| M22 | 涙は後回し | |
| M23 | RIVER | |
| M24 | だらしない愛し方 | |
| M25 | 背中から抱きしめて | |
| M26 | Answer | |
| M27 | タネ | |
| M28 | ペディキュアday | |
| M29 | 名残り桜 | |
| M30 | 言い訳Maybe | |
| M31 | 重力シンパシー | |
| M32 | 久しぶりのリップグロス | |
| M33 | ヘビーローテーション | |
| ── VTR(向井地美音 活動の軌跡)── | ||
| EN01 | 向かい風 | |
| ── 向井地美音スピーチ ── | ||
| EN02 | 君は僕の風 | |
| EN03 | 翼はいらない | |
| ── 福岡聖菜・花田藍衣・倉野尾成美より向井地美音へ ── | ||
| EN04 | 君と虹と太陽と | |
| 影アナ:福岡聖菜 / 終演 | ||
このセトリには、曖昧さがない。瞬間的にはわからなくても、帰路につく頃に気づく。後から食らってしまうような、でもわかる人にはちゃんとわかる意図が、1曲1曲の並びに込められていた。
制服姿でソロ「青春と気づかないまま」を歌い、AKBに憧れていた少女として始まる。そこから初めて選抜に入った「希望的リフレイン」、初センター曲「翼はいらない」へと続き、自身のキャリアをたどっていく。中盤のコロナ禍ブロックでは岡田奈々と「遠距離ポスター」を再演し、「僕の太陽」「劇場へようこそ!」へと繋いだ。ここはコンサートで最も静かで、最も重いパートだった。
歴代総監督3人による「RIVER」の掛け声では、高橋みなみ・向井地美音・倉野尾成美が並んだ。AKB48の歴史が一枚の写真に収まるような場面だった。さらに「永遠の推しメン」と語る小嶋陽菜が「背中から抱きしめて」を——小嶋の卒業コンサートで同じ場所・同じ曲を一緒に歌った映像をスクリーンに映しながら——デュエットした演出は、過去と現在を重ねる白眉だった。
本編ラスト「ヘビーローテーション」では、大島優子から受け取ったセンターのバトンを近藤沙樹に手渡した。14歳の最年少研究生をダブルセンターに指名するという、向井地らしい締め方だった。アンコールの最後は「君と虹と太陽と」——総監督時代のツアーで最後に歌い続けた1曲で締めくくられた。
卒業公演、最後のスピーチ「向かい風も追い風になる」——この日、彼女が伝えたかったこと
卒業公演の前日、4月29日。東京握手会の入場待機列が建物の外まであふれ、最後尾は遠く離れた場所まで伸びていた。向かい風が、追い風に変わっていた。その翌日、向井地美音は卒業公演のスピーチでこう言った。
「卒コンで伝えたかったことは向かい風も追い風になるってことを…。諦めないで…僕太の歌詞にもあって…」
——向井地美音、卒業公演スピーチ(2026年4月30日)「僕の太陽」にはこんな歌詞がある——「青空を今 あきらめないで」。コロナ禍でわずか8人で上演していたあの公演の曲を、卒業公演のセトリにわざわざ入れた理由がここで繋がる。あれは偶然の選曲ではなかった。「青空を諦めないで」「向かい風も追い風になる」というメッセージを届けるために、あの曲が必要だったのだ。
そしてスピーチで向井地は、このメッセージが誰に向けられたものだったかを明かした。
「卒コンで一番伝えたかったことは、本当に向かい風もいつか追い風になるっていうことなんですけど、それはもちろんコンサート会場にいらっしゃったみんな皆さんに伝えたい気持ちだけど、一番私はメンバーのみんなに伝えたくて、そういうお話をさせてもらいました。絶対にみんなにもこの先いろんなことが待ってるって思うけど、同じこと言っちゃうけど、やっぱり『青空を諦めないで』って」
——向井地美音、卒業公演スピーチ(2026年4月30日)ファンではなく、後輩たちへ。総監督として5年間一緒に戦ってきたメンバーたちへ。「僕の太陽」の歌詞は、その日のその場所で、向井地美音からAKB48への最後のメッセージになった。
スピーチはさらに続いた。
「学生としての青春はあまり満足に過ごせたわけではなかった私にとって、本当にこういうみんなと過ごした時間が私にとっては一番の青春で、学校のクラスメイトみたいでもあり、兄弟みたいでもあり、家族みたいでもあり、そして何より同じ夢を目指す仲間でもあり、本当にそんなみんなに出会えたことがすごく幸せだったなって思います」
「私の卒業をなんか誰が見送ってくれるかなって思ったりもしたけど、今日こんなにみんな大好きなみんなが隣にいてくれて、同じステージに立ってくれて、本当最後の最後までAKBで私は幸せな時間を過ごすことができたなって思いました」
——向井地美音、卒業公演スピーチ(2026年4月30日)そして次の言葉が来る。
「自分自身がAKBが好きで、自分自身のために私はAKBになったと思うんです。みんなのおかげで私のアイドル人生正解だったなって。やりきったなって。AKBにすべてを捧げてきたので…これからもずっと一緒に青春していきたいなって。絶対にまたみんなと会えるのでその時まで待っていてください」
——向井地美音、卒業公演スピーチ(2026年4月30日)「自分自身のために私はAKBになった」——この言葉は、AKBのために自分を後回しにし続けた5年間と表裏一体だ。総監督退任のスピーチで「AKBの活動を心から楽しめなくなってしまった時期もありました」と言っていた人間が、最後に「正解だった」「やりきった」と言えた。それがどれほどのことか。
そして最後に、彼女はこう言った。
「最後に伝えたいのは、5月からAKBオタクに戻りますって…。卒業しても私はずっとAKBなんだろうなって…。ずっと心の中ではAKB48のことを思い続けて…自分の人生の一番の宝物として…」
「本当に最後は『ありがとう』の言葉その5文字です。本当に本当にファンのみなさんもAKB48にかかわってくれたみなさんも、そして、AKB48そのものにありがとうございましたー!」
——向井地美音、卒業公演スピーチ(2026年4月30日)「AKB48そのものにありがとう」——ファンでもスタッフでもなく、AKBという概念そのものへのお礼。これはAKBオタクだった向井地美音にしか言えない言葉だ。メンバーとして13年間AKBの内側にいながら、最後の最後まで「1人のAKBオタク」だった人間の、それが本音だった。
スピーチの最後、彼女はこう言った。「私はAKB卒業してもAKBです」——この言葉に、13年間のすべてが入っていた。
向井地美音に、次はAKBを作る側に立ってほしい
向井地美音は間違いなくAKB48のレジェンドだ。コロナ禍という最悪のタイミングで総監督を引き継ぎ、縮小期のAKBを守り抜き、「向かい風も追い風になる」ことを身をもって証明した。今まさにAKBが上昇気流に乗り始めたこのタイミングで卒業するのは、ファンとしてどうしても惜しい。その上昇気流の中で、総監督・向井地美音が率いるAKBも見てみたかった。
「5月からはAKBオタクに戻ります」——向井地美音はそう言った。それはそれで嬉しい。でも、できればもう一歩先を期待したい。「向かい風も追い風になる」ことを証明した人間が、今度は作る側に回ったとしたら——運営として、プロデューサーとして、あるいは後輩の育成として——そこに生まれるものは、きっと特別なものになる。
「自分の人生の一番の宝物」と言ったAKBを、今度は外から守る立場になってほしい。AKBのことを誰よりわかっていて、AKBそのものにお礼を言えるほど愛している人間が、次の世代のAKBを作る側にいてほしい。
背は小さいけれど、大きい背中だった。
13年間、お疲れさまでした。ありがとう。
この公演、見たかったなー。
最後にまた握手会BGMを担当させて頂けることになりまして…せっかくなので幻のプロデュース公演を考えてみました…🎧笑
— 向井地 美音 (@mionnn_48) April 28, 2026
直角Sunshineでキラキラと始まり大人への道でしんみり終わったと思いきや黄金センターでブチ上げてポールスターで締める公演、絶対見たい。(ユニット5曲は番外編😉🫶)#東京握手会 https://t.co/a2qNoQtdCk
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・タウンワークマガジン 向井地美音インタビュー townwork.net
・modelpress 向井地美音インタビュー後編(2023年)mdpr.jp



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