伊藤百花はAKB48の救世主か——前田敦子以来の3作連続センターと、感謝祭でのブレイク
SEC 01前田敦子以来、約16年ぶりの「3作連続」
69thシングル(2027年2月24日発売)の選抜発表は、10月4日、幕張メッセの「東京握手会」の終盤だった。センターは伊藤百花。これで『名残り桜』『好きish』に続く3作連続の単独センターになる。
AKB48で3作続けて単独センターを務めたのは、これまで前田敦子だけだ。2011年の『桜の木になろう』『Everyday、カチューシャ』『フライングゲット』。グループが国民的な存在になっていく、まさにその真ん中にいた時期である。2作連続でさえ、2014年の渡辺麻友以来約12年ぶりと報じられたばかりだった。
| メンバー | 連続センター作品 | 時期 |
|---|---|---|
| 前田敦子 | 桜の木になろう/Everyday、カチューシャ/フライングゲット | 2011年 |
| 渡辺麻友 | 2作連続の単独センター | 2014年 |
| 伊藤百花 | 名残り桜/好きish/69th(タイトル未定) | 2026〜27年 |
※報道(galpo、リアルサウンド)による。
驚くのは、そのスピードだ。伊藤百花がAKB48に入ったのは2024年3月。加入から1年で選抜に入り、2年足らずでセンターに立った。正規メンバーになったのは、わずか10か月前のことである。
本人は69thについて、『好きish』でMVの再生数や握手会に来る人が増えた手応えを口にしたうえで、こう語っている。
「次のシングルでは“予想外のことを起こすぞ”という強い気持ちで挑みたいです!」
伊藤百花/2026年10月4日 69th選抜発表後のコメントSEC 02オールスター感謝祭で何が起きたか
その「予想外」は、思ったより早くやってきた。10月10日、TBS『オールスター感謝祭’26秋 放送70回記念SP』。伊藤百花は名物企画「赤坂5丁目ミニマラソン」に出場した。
今回は放送70回を記念した史上最長のコースで、距離は約5km。出場者は歴代最多の57人。優勝はNMB48の坂下真心で、女性の優勝は谷川真理以来25年ぶりという快挙だった。2位は男子5000mの日本記録を持つ招待ランナーの佐藤圭汰。そして3位に入ったのが伊藤百花だった。
一時は先頭の坂下に18秒差をつけられながら、4周目に入ったところで6秒差まで詰め寄った。直前の「心臓破りの坂」200m走でも、ゴール前で抜かれての2位。息ひとつ乱さない様子に、競り合った相手が驚いていたという。
そして、話題をさらったのはゴール後のコメントだった。
「悔しい〜。一瞬行けるかなと思ったんですけど、(経験の差で)粘りが足りなかったので、次はAKB48のセンターではなくて、ここの(赤坂5丁目ミニマラソンの)センターを取れるように頑張ります!」
伊藤百花/2026年10月10日『オールスター感謝祭’26秋』ミニマラソン後MCの今田耕司に「あなたはコメントも上手に言うね〜!」と褒められたこの一言。悔しさを隠さず、それでいて笑いに変え、さらっと「AKB48のセンター」という肩書きまで印象づける。走りだけでなく、言葉でも全国の視聴者をつかんだ。
| 順位 | 出場者 | 所属など |
|---|---|---|
| 1位 | 坂下真心 | NMB48(女性25年ぶりの優勝) |
| 2位 | 佐藤圭汰 | 陸上・招待ランナー |
| 3位 | 伊藤百花 | AKB48 |
| 4位 | 後上翔太 | 純烈 |
| 5位 | 井上咲楽 | タレント |
放送中には応援ハッシュタグ「#がんばれいともも」がXのトレンド4位に入り、ゴールで坂下とハイタッチする場面にも反響が集まった。数字にも、それははっきり表れている。
※2026年10月8日〜12日の4日間のフォロワー増加数。ファンによる集計で、公式発表ではありません。Xの増加数は、本人の過去最高(+4,653)を大きく上回った。
同じ4日間、2位のメンバーの増加はXで約400人、Instagramで約550人。1人だけ桁が違う。
勢いは放送の翌週も止まらなかった。ファンの集計では、放送後の1週間でXが約1.4万人、Instagramが約2.85万人、TikTokが約2.3万人増え、3つのSNSを合わせて約6.5万人がフォロワーに加わった。Xのフォロワーも11万人を突破している。
放送から5日後の10月15日には、感謝祭で崩れなかったメイクのレシピを本人がXで公開。この投稿は1日足らずで自身初の10万いいねを突破した。
同じ日のニッポンエールの記者会見では「もも裏の筋肉痛がすごくて」と笑い、まだ長距離には挑戦したことがないとして「ニッポンエールの横を走りたいです!」とアピールした。どこまでも前向きなこの受け答えも、また好感を呼んでいる。
SEC 03数字で見る「いともも効果」
「バズっている」という印象は、数字でも裏づけられるのか。伊藤百花がセンターになってからの主な数字を並べてみた。
| シングル | センター | 初週売上 |
|---|---|---|
| Oh my pumpkin!(2025年8月) | 小栗有以 | 52.7万枚 |
| 名残り桜(2026年2月) | 伊藤百花 | 62.3万枚 |
| 好きish(2026年8月) | 伊藤百花 | 76.6万枚 |
※Billboard JAPAN「Top Singles Sales」初週。『好きish』は累計85万6349枚(10月中旬時点)で、AKB48メンバーだけの選抜になった2021年以降の最高を更新した。
伊藤がセンターになってからの2作で、初週売上は52.7万枚から76.6万枚へ、約1.5倍に伸びた。もちろん、CDの数字はグループ全体のもので、伊藤1人の成果ではない。ただ、センターが変わったタイミングで右肩上がりが始まったのは事実だ。
| 指標 | 伊藤百花の数字 |
|---|---|
| 『好きish』OS盤 個別握手会 | 全59部完売(全完売は8人) |
| 推し席(ファン投票) | 中間2位 → 最終3位 |
| Xフォロワー | 約11.2万人 |
| Instagramフォロワー | 約24.5万人(メンバー2位。1位は小栗有以の約35.1万人) |
| TikTokフォロワー | 約16.8万人 |
| 本人のX投稿の最高いいね | 10万超え(2026年10月15日、自身初) |
| 「#がんばれいともも」 | Xトレンド4位(感謝祭放送中) |
| 2026年1〜10月のテレビ出演 | 約40番組 |
| 個人でのCM起用(2026年) | 8本(TV・Web) |
※フォロワー数は2026年10月22日時点。握手会の完売数はファンによる集計、テレビ出演とCMはファンサイトの出演記録をもとに数えたもの(いずれも公式発表ではありません)。推し席はKアリーナ公演で発表された結果。
並べてみると、伊藤の数字には特徴がある。テレビやSNSといった「外」の数字が飛び抜けている一方、握手会の完売やファン投票といった「内」の数字は、トップクラスではあっても独走ではない。推し席の最終結果は3位で、1位は同じ「星月花」の佐藤綺星だった。
つまり伊藤百花は、今いるファンを独り占めするタイプのエースではなく、まだファンではない人を連れてくるタイプのエースなのだ。これこそが「いともも現象」の正体だと思う。
SEC 04伊藤百花がバズる4つの理由
感謝祭は「きっかけ」にすぎない。伊藤百花はこの2年近く、何度も繰り返しバズってきた。その理由を整理すると、4つにまとまる。
① 「顔面重要文化財」と呼ばれるビジュアル
出発点は、やはりビジュアルだ。2025年1月、まだ研究生だった伊藤を紹介したファンの投稿は6万いいねを超え、メディアでも「顔面重要文化財」という呼び名で紹介されるようになった。
注目すべきは、反応した人の層だ。ネット上には「ぱっと見は乃木坂っぽいけど、ちゃんとAKB」「乃木ヲタに出戻るところだった」といった声が並ぶ。AKB48のファンではない人、他のグループのファンにまで届いたことが、最初のバズを特別なものにした。
② 「顔だけじゃない」ギャップ
2026年5月、TBS『有田哲平とコスられない街』で、伊藤はこう言ってスタジオを笑わせた。
「顔でしかバズったことがなくて」
伊藤百花/2026年5月8日放送 TBS『有田哲平とコスられない街』自分のことをよく分かっている、と思わせる一言だ。そしてその5か月後、彼女は「走り」でバズった。顔だけではない、という証明を、全国放送の生中継でやってのけたことになる。
ほかにも、伊藤には意外な引き出しが多い。3歳から14歳まで続けたバレエ、春風亭小朝のもとで「春風コココ」の名で学ぶ落語、高校で取った英検準1級、移動中はずっと本を読んでいて最近のおすすめは本屋大賞の『カフネ』。ネットでは「全方位に隙がない」という声も上がる。
③ テレビに「見つかった」露出量
2026年に入ってからのテレビ露出は、近年のAKB48メンバーとしては異例の量だ。4月からは『めざましテレビ』の「イマドキガール」でレギュラー出演。『モニタリング』『全力!脱力タイムズ』『しくじり先生』『あざとくて何が悪いの?』など、ゴールデン帯や人気バラエティへの出演も続いた。
CMも、マクドナルドやバンダイ、ORBISなど個人での起用が増えている。ファッションの世界でも、TGC 2026 A/Wのメインビジュアルに起用され、KANSAI COLLECTIONではオープニングを務めた。rienda、dazzlin、サマンサベガなどブランドのモデルにも次々と起用されている。アイドルファン以外の目に触れる場所に、毎週のように出ている。感謝祭のバズは、こうした積み重ねの上で起きた。
④ どんな場所でも全力でやる
そして、いちばん大きいのはこれかもしれない。伊藤は、出た場所で手を抜かない。ミニマラソンで3位に入ったのは、運動神経だけでなく、57人の中で最後まで全力で走り切ったからだ。バラエティでもクイズでも、そのまじめさが画面越しに伝わる。
「かわいい子」はたくさんいる。でも、「かわいいのに、ここまで本気でやるのか」と思わせる子は多くない。顔で入口を作り、中身で好きにさせる。それが伊藤百花のバズの構造だ。
SEC 05「星月花」という存在
伊藤百花を語るうえで外せないのが、「星月花(せいげっか)」だ。17期の佐藤綺星、18期の八木愛月、19期の伊藤百花。3人の名前の最後の一文字、「星」「月」「花」を取った呼び名で、雑誌では「AKB48エーストリオ」として3人そろって紹介されるほど定着している。
| 期 | 初センター | |
|---|---|---|
| 佐藤綺星(星) | 17期 | 恋 詰んじゃった(2024年) |
| 八木愛月(月) | 18期 | まさかのConfession(2025年)※史上初の研究生センター |
| 伊藤百花(花) | 19期 | 名残り桜(2026年) |
3人とも、表題曲のセンターを経験している。17期・18期・19期と、3つの期のエースがそろってセンターに立ったことになる。『好きish』では3人でフロントを務めた。今のAKB48の「顔」は、伊藤1人ではなく、この3人だと言っていい。
関係性もいい。伊藤と佐藤は、伊藤の加入直後にドラマ『星屑テレパス』で共演したのをきっかけに仲良くなった。佐藤は伊藤を「今は双子みたいな感じ」と話し、センターとしての伊藤をこう見ている。
「本当にすごく成長しているんです。弱音を吐かず、言葉も行動もしっかりしていて」
佐藤綺星(BUBKA WEB 2026年8月)八木も『名残り桜』からの伊藤について「見違えるくらいに表情も変わった」と語る。年末には3人で思い立ってディズニーシーに出かけるなど、プライベートでも仲がいい。
星月花が大事なのは、「いともも現象」をグループに広げる回路になっているからだ。伊藤をきっかけにAKB48を見た人は、その隣に佐藤と八木がいることに気づく。推し席で1位になったのは佐藤だった。伊藤が外から人を連れてきて、佐藤や八木がその人たちをAKB48に引き留める。そういう役割分担が、自然にできつつある。
かつてのAKB48には、前田敦子と大島優子のように、センターを争うライバル関係がグループを大きくした時代があった。星月花は、支え合う仲間であり、同時に譲れないライバルでもある。ファンの間には「フロントが固定化している」という声もあるが、3人がお互いを高め合う物語は、1人のエースの物語よりずっと長く続けられるはずだ。
SEC 06AKB48の救世主なのか
では、伊藤百花はAKB48の救世主なのだろうか。材料は確かにそろっている。
SEC 03で見たとおり、伊藤がセンターになってから、CDの初週売上は2作続けて大きく伸びた。MVは発売前に1000万回を超え、テレビやCMで「AKB48の伊藤百花」を見る機会も増えた。何より大事なのは、伊藤がAKB48の外にいる人に「見つかる」入口になっていることだ。秋元康は以前、「『これがAKB48だ』っていろんな人に見つかったら東京ドームへ行ける」と語っていた。今、いちばん多くの人に見つかっているのが伊藤百花なのは間違いない。
本人も、その役割を自覚している。
「バズって終わりではなく、劇場に足を運んで頂けるきっかけになれるように頑張りたいです」
伊藤百花(リアルサウンド 2026年9月)一方で、「救世主」と言い切るには、まだ早い理由もある。
- グループの中では「圧倒的」ではない。推し席は3位で、1位は佐藤綺星、2位は小栗有以だった。外での人気と、AKB48ファンの中での支持には、まだ差がある。
- 3作連続センターへの複雑な声。ファンの間には「他のメンバーにもチャンスを」という声も根強い。1人に光が集まるほど、グループ全体の物語は見えにくくなる。
- バズには賞味期限がある。「話題の美女」で終わらず、AKB48のファンとして定着してもらえるかどうか。フォロワーの数は、まだ劇場やライブに来る人の数ではない。
2011年の前田敦子と同じ役割を、2026年の伊藤百花に期待するのは酷かもしれない。時代も、グループの規模も、テレビとSNSの関係も、あのころとはまるで違う。それでも、10月10日の夕方、赤坂の心臓破りの坂を駆け上がっていく姿を見ていると、つい期待してしまう。この子なら、もしかしたら、と。
思えば、伊藤百花はずっと坂を上ってきた。子役として芸能界に入り、一度は別の名前で別の道を歩き、19期生としてAKB48の門をくぐった。研究生のまま選抜に入り、昇格から3日でセンターを告げられ、そして3作連続。外から見れば一気に駆け上がったように見えるその道も、本人にとっては一歩ずつの坂道だったはずだ。センターとしての自分を疑うこともあると打ち明けながら、それでも前を向いて走ってきた。
「顔でしかバズったことがない」と笑っていた子が、走りでバズり、言葉でバズった。きれいな顔は、人の足を止めることはできる。でも、人の心を動かすのは、その奥にあるひたむきさだ。感謝祭の夜、全国の茶の間が見たのは「顔面重要文化財」ではなく、悔しさを笑顔に変えてマイクに向かう、22歳の等身大の姿だったと思う。
伊藤百花は、AKB48にもう一度「見つかる」ための扉を開けた人だ。ただ、その扉の向こうに何を用意しておくかは、伊藤1人の仕事ではない。夜空に星があり、月があり、そこに花が咲く。星月花の3人がいて、小栗有以や倉野尾成美がいて、40人を超える仲間がいる。扉を開けて入ってきた人が、そのうちの誰かを好きになり、やがてAKB48そのものを好きになる。救世主になれるかどうかは、むしろそこにかかっている。
一輪の花だけでは、春は来ない。百の花が咲きそろって、はじめて野は春の色に染まる。「百花」という名前は、もしかしたらそういう意味なのかもしれない。1人で咲き誇るのではなく、まわりの花まで咲かせていく人。伊藤百花がそういうセンターになれたとき、AKB48に、もう一度本当の春が来る。
「予想外のことを起こすぞ」。69thに向けた伊藤の言葉は、もう半分くらい実現している。残りの半分は、2027年2月24日の発売と、その先のステージで見せてくれるはずだ。いともも現象が、AKB48現象に変わる日。その春を、楽しみに待ちたい。
・AKB48公式、ORICON NEWS、リアルサウンド、モデルプレス、デイリースポーツ、ENCOUNT、BUBKA WEB、めざましmedia、galpo、日刊エンタメクリップ
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